中期計画に、現在は「選択制」であるデリバリー式給食を「全員制」に移行することが盛り込まれているが、これは中止すべきである。
多くの自治体がデリバリー式給食を止めて、自校方式、親子方式、センター方式による給食へと移行している。その中で、横浜市だけが時代に逆行する愚かな政策を取ろうとしている。デリバリー方式は長時間運搬で冷たい、アレルギーへの対応が難しいなど欠点が数多く、生徒、保護者からの評価も低い。残食率が高く、SDGsにも反する。そもそも学校教育の一部である給食を民間業者に丸投げすることが大きな問題を孕む。
全国の政令指定都市の中では、大阪市が2015年から5年かけて、デリバリー方式から自校方式、親子方式を組み合わせた「学校調理方式」への移行を実現した。手本にすべき先例であり、山中市長も昨年の市長選の中でそう述べたはずである。大阪市にできたことが横浜市にできないはずはない。一斉開始にはこだわらず、横浜市でも大阪市のように可能な中学校から順次、学校調理方式に移行すれば良い。時間をかけて、すべての中学校で学校調理方式を実現するロードマップの策定は可能である。
横浜市は自校方式、親子方式、センター方式を組み合わせたミックス方式について、検討は続けてきたが、必要とされる6ヶ所の給食センターの建設用地のめどが付かないために実現困難としている。だが、本年8月26日付けの「今後の中学校給食の在り方の検討状況について」という報告書を精査してみると、各中学校における自校方式および親子方式の可能性を十分に検討したとは言い難いのが分かる。
横浜市立の小学校・中学校はすべての中学校で「学校調理方式」の給食を実現するだけのポテンシャルを備えている。その場合には、給食センターの建設も必要ない。
「今後の中学校給食の在り方の検討状況について」では、自校方式が可能と判定された中学校は39校。残る106校で60127食の不足が発生するとされている。一方、横浜市の小学校の既存の給食室は、中学生の一食換算(小学生の1.3倍)で、71272食の余力を持っていると計算される。これに自校方式可の中学校の給食室の余力を加えると76471食となる。単純計算では、親子方式および兄弟方式での利用が考えられる「余力」の方が「不足食数」を上回っている。
しかも、自校方式可と判定された中学校は39校だが、その可否判定は300m2の給食室が建設可能かどうか、の一点で判定されているようだ。横浜市立の中学校には1000名を超えるマンモス校もあれば、200名程度の小規模校もある。小規模校では300m2を下回る面積の給食室でも、自校方式調理が可能なはずである。300m2一律ではなく、生徒数に合わせた給食室の面積で可否判定すれば、自校方式が可能な中学校は39校を上回ると考えられる。
加えて、横浜市は給食室の建設において、二階建てを検討していない。二階建ての給食室は、さいたま市では過半数の中学校に採用されている。校庭の狭い横浜市の中学校でも、二階建ての給食室は積極的に採用すべきである。二階建てならば、300m2の給食室を建てても、敷地面積は約半分となる。150m2程度の敷地の余裕ならば、はるかに多い中学校が持っているはずである。二階建ての給食室建設で、自校方式が可能な中学校数が増えれば、先述の不足食数はさらに減少する。
一方、供給の余力を増やすことも可能である。小学校の給食室の余力を横浜市は既存の給食室の釜の数から算定したと聞くが、他自治体では親子方式の検討に当たっては、小学校の給食室の増改築、それが不可の場合でも調理器具の増強を考えている。これらによって、親子方式の親となる小学校の給食室の余力は増やすことができる。さらに、兄弟方式の兄となる中学校には、可能ならば300m2より大きい給食室を建設する。これによって、余力はさらに増やせる。
このようにして、不足食数を減らし、供給の余力を増やすことは可能である。少子化の影響で、年々、不足食数は減少し、余力は増大することも分かっている。先の報告書で、自校方式、親子方式、兄弟方式を合わせた「学校調理方式」の給食が可能と判定された中学校は72校に過ぎなかったが、数年後にははるかに多くの中学校で「学校調理方式」が可能な状況となっているだろう。
さらに、横浜市独自の方式を加味して、「学校調理方式」を実現する道も考えられる。自校方式不可の中学校でも、主食調理(炊飯)は必ず自校で行うこととする「自炊・親子・兄弟方式」である。先の報告書ではいずれの方式の場合にも64m2程度の配膳室は必要とされているが、その建設が不可能とされた中学校はない。となれば、64m2の配膳室の二階に64m2の炊飯室を置いた128m2の給食設備ならば、どの中学校にも建設可能であろう。
自校方式不可の中学校でも炊飯は自校で行い、オカズや汁物だけを運び込むこの「自炊・親子・兄弟方式」を取れば、親もしくは兄となる学校の給食室の負担は軽減される。運搬量も大きく減らすことができる。オカズや汁物だけに注力すれば、親もしくは兄となる学校が供給できる食数も増やせるはずである。そこで、「学校調理方式」の実現可能性はさらに大きくなる。
それでも、生徒数が1000名を超えるようなマンモス校では、自校方式が不可の場合、先の報告書の中で横浜市が想定した1:1の親子方式・兄弟方式では、不足食数をまかないきれないとは思われる。しかし、他の自治体では1:1に限らず、2:1の親子方式も採用の例がある。こうしたマンモス校の学区内には三つ四つの小学校があることが多いのだから、2:1や3:1の親子方式・兄弟方式を検討することも理にかなう。必要に応じて、2:1や3:1の親子方式・兄弟方式を使うことによって、横浜市のほとんどの区で、全中学校の「学校調理方式」給食が実現する状況が生まれるはずである。
ただし、鶴見区、港北区の二区だけは、最後の難関となりそうである。とりわけ、鶴見区は隣接区が港北区と神奈川区しかなく、先の報告書ではこの二区も不足数が余力を上回っている。不足数・余力のバランスは区によって大きく異なり、この偏りの激しさから鶴見区、港北区の二区では上記のすべての工夫を凝らしても、「学校調理方式」の実現困難校が出るかもしれない。だが、その場合には横浜市が検討した隣接区の学校から運搬する親子方式・兄弟方式だけでなく、隣接しない区からの運搬も検討すべきである。具体的には大きな余力を持つ青葉区からの運搬だ。
青葉区から港北区の移動は、間に都筑区を挟むが、きた線の開通によって、移動時間が短くなっている。さらには、鶴見区への移動時間も大きくは変わらない。例えば、余力の大きい青葉区の山下みどり小から港北区の9中学校への移動時間(午前10時半到着を想定)はおおむね25分以内と推定される。渋滞を想定した最大の場合でも45分以内である。鶴見区の10中学への推定移動時間も30分以内、最大でも50分以内である。センター方式の場合の一般的な運搬時間と比べても、これは長くはない。
隣接区からの親子方式・兄弟方式だけでなく、港北区、鶴見区については、青葉区(あるいは都筑区など)からの親子方式・兄弟方式を取ることによって、横浜市の全中学校で「学校調理方式」の給食は、無理なく実現すると考えられる。できない理由を探すのではなく、できるようにする方法を考えれば、道は開けていく。
鶴見区では汐入小、入船小の2校が32m2の食缶室が建設不可で、親子方式の親の検討対象から外されているが、この2校は少子化で小規模校化して、教室も余っている。32m2の食缶室が用意できないとは考え難い。細やかに各校の状況をふまえることなく、数字や図面だけをもとにした一律の判定で、可能性を閉じている例が、先の報告書には多いのではないかと考えられる。一校一校、きめ細かく状況を見定めていけば、全中学校での「学校調理方式」給食は、調理や運搬のスムースな在り方も考えあわせた形で、実現されるはずである。
「学校調理方式」の中学校給食を、二階建て給食室、「自炊・親子・兄弟方式」など、横浜市ならではの工夫を凝らして実現すれば、それは他自治体も真似する先例となるに違いない。給食センター建設や全員制デリバリー方式のための工場建設には広大な土地を必要とするが、「学校調理方式」ならば、あらたな土地の調達も必要ない。ゆえに、初期費用はずっと低く抑えられる。国からの補助も得られるから、「中期計画」に盛り込まれようとしているデリバリー方式全員制に比べて、初期コストは半分程度になるはずである。加えて、ランニングコストにも優れる。食育の面からも好ましい。
横浜市は「学校調理方式」による中学校給食を実現するとともに、「全員制」や「あたたかい給食」をゴールにするのではなく、その先にある、子供のことを第一に考えた、どの自治体にも質を誇れるような給食を小学校、中学校ともにめざすべきである。そのために、「デリバリー方式」は廃止し、「学校調理方式」を基本とする長期計画を策定すべきである。
横浜市中学校給食HP(https://kyushoku.city.yokohama.lg.jp/)に掲載されいる10月のデリバー弁当の一例